【対談】激変するモビリティ世界とソフトウエアの可能性 

技術対談
技術顧問/デジタルイノベーション室 室長
及川 卓也さん/成迫 剛志さん
及川 卓也さん 写真左:早稲田大学理工学部卒。外資系コンピュータ企業を経て、MicrosoftでWindowsの国際版の開発をリードする。その後Googleにて、ChromeのWeb Platformチームのエンジニアリングマネー ジャーを歴任。スタートアップを経て独立。2019年1月、テクノロジーにより企業や社会の変革を支援するTably株式会社を設立。インターネット基盤やセキュリティー技術、Web技術の標準化やコミュニティ活動にも携わる。開発者コミュニティでの講演実績や雑誌寄稿など多数。最近では、日本におけるプロダクトマネジメントやエンジニアリングマネジメントの重要性の啓蒙も行う。2018年、デンソーと技術顧問契約を締結。
著書『ソフトウェア・ファースト~あらゆるビジネスを一変させる最強戦略~』(日経BP)

成迫 剛志さん 写真右:大学を卒業後、日本IBM、伊藤忠商事、香港のIT事業会社社長、SAPジャパン、中国方正集団、ビットアイル・エクイニクスなどを経て、2016年8月デンソーに入社。コネクティッド時代のIoT推進を担当し、2017年4月にはデジタルイノベーション室を新設、同室長に就任。
―MicrosoftやGoogleといったITの最先端企業で開発の最前線に立ってきた及川技術顧問と、同じく複数のIT企業で経験を積み、2016年に全く異なる文化を持つデンソーに飛び込んだデジタルイノベーション室 成迫室長が考える「未来のモビリティ世界」について対談形式で伺いました。―

※本記事は、2018年12月に発行された社内報『デンソー時報No.713』の特集記事の転載となります。


今こそモビリティ社会を捉え直すとき

成迫:カーシェアや電気自動車の出現に応じて、社会のモビリティの在り方は大きく変化しています。
これまでは、クルマを所有することが大前提でしたが、シェアして使用するモビリティに変わりつつあります。例えば、毎日1時間クルマに乗った場合でも、稼働率はたったの4.2%。ほとんどの時間を駐車場に停めているだけで、コストパフォーマンスがとても悪い状況でした。しかしシェアすることが前提になると、クルマの稼働率は劇的に上がると思います。

また、クルマは発展途上国で今後も需要が増えるため、引き続きクルマの生産台数は増えるでしょう。しかしながら長期的には、クルマの販売台数は減少し、その分、さまざまな移動手段が発展していくと考えられます。

及川:短期的には自動車の生産台数が増えるということですが、身近に感じる変化と世界的な潮流との間にギャップを感じます。私が20代のころは、クルマを持つことがステータスでした。「いつかはクラウン」という言葉も、当時流行していた言葉です。それが今の若い世代は、クルマを持つこと自体が非合理だと割り切っているように見えます。モビリティ社会の中でクルマの位置付けが大きく変わってきたからでしょう。デンソーがMaaSに取り組む理由も、そういった時代背景と無縁ではありませんよね。

成迫:確かにデンソーが取り組むMaaSでも、「人は何をしたいのか」「どうして移動したいのか」から考えるようにしています。もはや、「クルマを購入して、移動に使う」という既成概念が通用しないのですから、これから先のモビリティを考える上では、アプローチ自体を変えなければなりません。

及川:モビリティの中で、クルマをどう位置付けるかは、ますます重要になっていきます。例えば、Uber Eatsは、個人の配達パートナーを雇い、空いた時間で配達してもらう事業を始めましたが、これは今までは行くことでしか味わえなかった人気レストランの食事が、向こうから届くようになるという価値創造です。ヒトではなく、モノを移動させることで事業を成功させた例です。これからのモビリ ティを考える上では柔軟な発想が必要です。

課題先進国の日本は、チャンスの宝庫

及川:日本は少子高齢化に伴う市場の縮小や都市への人口集中が進み、世界でも例がないほどの課題先進国。労働人口が減るから効率的に作業をしないといけない、ロボットなどを導入して人の手を省かないといけない。他国に先駆けて取り組むべきことがたくさんあります。今後10年で達成できないと、日本はまずい状況に陥ると思います。デンソーのような技術を持った会社にとってはビジネスチャンスの宝庫です。

成迫:確かにここ10年がポイントになりますね。10年では遅いかもしれません。

及川:日本が抱える課題の一つに、地方の過疎化が挙げられます。これまで過疎地域に住む高齢者は、運転技術に支障が出てくると運転免許を返納して、町に1~2台しかないタクシーを使用することになり、移動が極端に制限される状況だったかもしれません。そこでロボットタクシーが普及すれば、移動手段を確保することができます。ニーズは高いと思いますよ。デンソーも過疎が進む町と連携して、地域の再生事業を始めてみてはいかがですか。

成迫:デンソーも、自動運転そのものではありませんが、豊田市が推進する「豊田市低炭素社会システム実証プロジェクト」に参画しています。スマートハウスでは、デンソーが開発したHEMSやエコキュート、家庭用蓄電池を使った実証実験が行われています。今後、このような動きを加速させていかなければなりません。 過疎が進む町での実証実験としては、福岡県大刀洗町の事例が面白いですよ。高齢者向けの移動手段を確保するために、循環バスを走らせたそうです。スーパーや病院を巡回するルートを設定したところ、バス内やスーパーでの交流が楽しく、これまでは家と病院の往復だった人が、さまざまなところに出向くきっかけになったそうです。結果的に、健康な人が増えたことで、医療費の削減にもつながり、巡回バスを導入した行政も大満足だったそうです。

及川:面白いですね。今後、このような動きが、地方からどんどん出てくると思います。モビリティの変化に伴うチャンスに、常に敏感でなければなりません。

現場力とソフトウエアの融合

及川:今の世の中、ほとんどのものがソフトウエアで動いているといっても過言ではありません。正確には、ソフトウエアの中のアルゴリズム※でできています。金融業界も10年以上前にアルゴリズムトレード※を取り入れ、AIが投資分析を行うようになった結果、各社の投資戦略の差はなくなりつつあります。このように社会のさまざまな場面で、劇的にソフトウエアが変化しているにもかかわらず、デンソー社内ではセキュリティーが厳しすぎて、最新のソフトウエアになかなか触れられないのが残念です。その他の面でも、社内セキュリティーが厳しすぎますね。

成迫:確かに、いわゆる「モノ」の中身も、ソフトウエアの割合はどんどん高まっていますね。ユーザーへの提供価値がモノからコトへ進化している中、デンソーも世の中の変化に敏感でなければなりません。 ボッシュは10年前に、「ソフトウエアで勝負する会社だ」と公に宣言しました。一方、デンソーはカイゼン文化の会社です。現場力が高いのもデンソーの強みです。私はそこに惹かれて入社しました。ただ、あらためて考えてほしいのは、デンソーの工場には現場力を感じますが、それ以外の技術・事務部門には現場力があるのかということです。デンソーがDNAとして持っているカイゼン・現場力の文化に手段としてのソフトウエアがうまく連動すれば、より素晴らしい価値を提供できる会社に進化していけると思います。

自分のキャリアを他人任せにしてはいけない

成迫:及川さんのように華やかな経歴をお持ちだと、挫折や失敗とは無縁に思えます。実際は、いかがですか?

及川:つらい出来事や挫折があっても、すべて必要な経験なのだと思うことにしています。自分に起こったことを客観的に捉えて、次に同じことが起きたらどうするのか追体験するようにしています。例えば以前、勤めていた会社が他社に吸収合併されるという出来事がありました。合併される最後の数年は、職場が殺伐とした雰囲気になり、盲目的に会社に従属するのはよくない、常に辞めた時のことは考えておくべきだと学びました。

成迫:及川さんの「勝手にベンチマーキング」の話は大変面白いです。ぜひ、紹介してください。

及川:年に1回は、ヘッドハンターに会うようにしています。彼らに現在の年収と1年間の実績を伝え、仮に今、自分が転職すると、現在より年収は上がるのか下がるのか、確認するようにしています。 提示される年収が現在より上がるのであれば、今年やってきた仕事は他社でも通用するものであった、逆に下がるようであれば、他社で通用しない独自過ぎる仕事をやっていたということになります。自分を見つめ直すひとつのきっかけになりますよ。ヘッドハンターに会わなくても、自分がやっている仕事が他社でも通用するのか、常に外の視点を持っておくことは重要だと思います。デンソーという会社の看板を外したときに個人にどんな価値があるのか、社員がその視点を持って働くことが、デンソーをさらに成長させるのではないでしょうか。

成迫:デンソー社員はよく、「デンソーならではとは何か」を気にしますが、他社での経験が長い私からすると、「デンソーならでは」を問うだけではなく、「他社の社員と比較して、自分ならではとは何か」を考えるようにしてもらいたいです。いわゆるセルフ・ブランディングの視点を持つのです。一人ひとりが「自分ならでは」を追求している社員が集まれば、組織力を強化できると考えています。そして、どんどん変革を起こす社員が増えていってほしいです。

※アルゴリズム:ある特定の問題を解いたり、課題を解決したりするための計算手順や処理手順のこと。 ※アルゴリズムトレード:コンピューターシステムがマーケットの動向に応じて、自動的に売買注文のタイミングや数量を決めて注文を繰り返す取引のこと

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